読者より災害等分析手法「SAFER」について、古濱寛氏(東京電力(株) 技術開発研究所 ヒューマンファクターグループ)の講演のレポートが届きましたので紹介します。
SAFERとは
「SAFER(Systematic Approach For Error Reduction)」は災害やトラブルなどの分析手法である。東京電力㈱にて以下のコンセプトで開発された。
- 第一線職場の職員が簡便に利用できること
- 原因分析から対策立案・評価までを体系的に行えること
- 部門や職場を問わず、また、災害の軽重によらず、様々な事例に対して使えること
SAFERの分析手順
導入 | 手順1 | 「エラーは引き起こされる」を理解する |
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分析 | 手順2 | 時系列図の作成 |
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手順3 | 問題点の抽出 | ||
手順4 | 背後要因図の作成 |
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対策 | 手順5 | 考えられる対策の列挙 |
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手順6 | 対策案の効果と評価 |
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実施 | 手順7 | 対策の実施 | |
評価 | 手順8 | 実施した対策の評価 |
分析を行い、事例を重ねて見えてきた課題
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手順やモデルに従うことに重点が置かれ、「災害やエラーがなぜ引き起こされたのか」という観点からの考察が足りない
- → エラーしたくてしている人はいない。エラーは、引き起こされる。(しかし、最近は「私は悪くない。悪いのは回りだ」のような極端な責任転嫁もみられる)
- → 分析手順の冒頭に基本的な考え方の理解を位置付け、個人の要因で終わらせないような、多面的な考察を促した。
エラーに関する基本的な考え方(m−SHELLモデル)
(河野龍太郎による)
人間の特性に合わない周囲の要因があるとエラーが引き起こされる。
ヒューマンエラーは、原因ではなく、結果である。
H:ハードウエアー
S:ソフトウエアー
E:環境
L:自分及び上司・同僚
m:マネジメント
- 背後要因の分析に論理の飛躍がある
- → 因果関係を論理的に追い、因果関係を絶つ対応策を立案する。
- → その事象が何故引き起こされるのかの要因を検討した後、「その要因」から「その事象」が引き起こされるのかを、逆に考えてみる。
- → 事象を抽象的でなく、細分化し、物理的な現象として表してみると、その背後要因や対策が考えやすい。
- さまざまな対策を考えても最終的に「効果は薄いがコストはかからない対策」が選ばれがち
- → 「決めうち」しない、落としどころを決めない。
- → 「前回もこんな感じだったから、今回も」は、結局、何も改善されていない。
- → 効果の半定量的な評価が必要。
- → 対策案の残留リスクと副作用(他の業務への影響)も検討すべき。
新しい評価基準
従来は以下のような評価がされてきたが、新たに評価基準を提案した。
従来の評価
効果 | コスト | 時間 | 即効性 | 難易度 | 対策1 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ◎ |
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対策2 | ○ | ○ | ○ | △ | ○ |
対策3 | △ | ○ | △ | ○ | ○ |
対策4 | △ | △ | ○ | △ | ◎ |
新しい評価基準では、エラー対策の発想手順「GUIDE(Guideline for Ideas of Error Reduction)」に基づき、対策を、エラー機会低減、エラー確率低減、エラー検出、被害の低減の4カテゴリー、11ステップに分けて考える。
点 | |
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やめる、なくす | 10 |
できなくする | 8 |
わかりやすくする、 やりやすくする |
4 |
検出する、備える | 2 |
知覚能力を持たせる、 認知・予測させる、 安全を優先させる、 できる能力を持たせる、 自分で気づかせる |
1 |
- 「やめる」「なくす」のような「エラープルーフ」は高得点
- ヒトの認識、気合いの頼るような対策は、1点
- 「リスク低減」「リスク管理」に重点を置いた評価とした
- 最終的には、全体的な視点で「リスクを下げる」こと
- 対策はできるだけ具体的に。例えば、
アルコールが検出されたらエンジンがかからない→8点
アルコールチェッカーで、自分でチェックする→1点
学習・今後の展開など
実務者研修、指導者研修、支援活動
実務者研修 | 指導者育成 | |
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概要 |
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研修 人数 |
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内容 |
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ツール ・支援 |
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分析能力の組織的向上を目指すために整理を試みる。
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基本となる考え方の共有
- → 手順だけを見倣っても分析能力は向上しない
- → 考え方が共有できれば、手法の違いは本質的でない。同一事例について、東電、関電、日立、電中研で分析を行ったが、結果はほぼ同じであった。
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双方向学習(双方で考え方を学ぶ)
- → 受け取る側は、考え方の「理解」だけでなく、「体得」が必要
- → 伝える側は、受け取る側の状況を理解し、相手に合わせた伝え方が必要。「本質」が伝われば、「ことば」は関係ない
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今後の展開
- → 多くのケースを集めて傾向を見る(組織要因や共通要因の分析・対策を行う。組織として何がダメなのか)ことができる手法の開発。
- → 分析して提示された「背後要因」の妥当性の検証
- → 対策がきちんと行われているのか、行われた対策は期待どおりの効果を発揮したのか